「もういやや」

いやや、なんて幼い子どもみたいに人に甘えるのは、本当のところちょっと躊躇う。でも、そうした時の表情がとても優しいので、私は生まれ育った場所の言葉を慎重に選び取って口にする。これは相手に、貴方は特別ですよ、って意思表示する為の行為なんだから。と、頭の中で恥ずかしい自分に一生懸命言い訳して。
花灯路を歩いて、ご飯を食べて、泊って、空きっ腹に美味しくないラーメンを食べた。猫に遊んでもらって、最後にあのお稲荷さんの寒桜を見た。「此処に来られるのも最後になるかも知れないからね」との言葉をすんなり受け止められる。3年前のあの日、私はこの柱に凭れていたっけなぁと、懐かしい思いで冷えた木肌にそっと触れた。来年の今日、自分達がどこにいるかはまだ判らないけれど、その時もこの人が隣に居たら嬉しいと思う。