晩夏の果実

明け方の雷と共に、長く続いた鬼の様な暑さもどこかへ去ってしまったみたい。
まだまだ快適と呼べる気候では無いものの、昼間の京都が随分過ごし易くなった。そういえば、セミの声で朝起こされるという事もなくなっている。その代わり夕刻にひぐらしが鳴く。

梨を剥いた。
8月中旬、中国地方を旅した際に買ってきた幸水を、まだ少し硬かったので台所に放置していたのだが、そろそろ食べごろだろうと。シャリ、という小さな噛み音と一緒に水気たっぷりの僅かに青くさい甘さが口内を潤す。もうひと口。程良く唾が出て、食が進む。涼やかな甘みが幸せを運ぶ。シャリ。ナイフ右手に、剥けたものから次々と頬ばっていく。シャリ、シャク、シャク。噛み砕いて尚芳醇な香りと果汁を絶やさないこの果物が、私の一番の好物。
梨を一切れずつ食べながら窓の外を眺める。夕暮れが近い。