卵のふわふわ

幸せだったこととか嬉しかったことって、何だか文章に出来ないな。例えばすごーく美味しい物を食べても、何だかその詳細を日記に残そうという気持ちが湧かない。
(たぶんそれは自分の拙い文章で表すことで、自分が感じた素晴らしいものが何だか薄っぺらくてありきたりな感動になってしまうのではないかという恐れがあるから。「楽しい」「幸せ」って書いても、それは自分の気持ちを無理やり規定の型に嵌め込んでいるだけのような気がする。だったら胸の内に秘めておく方がいい。)

その反面、辛いことや悩んでいることなんかはどんどん書いてしまう。どんどん書いてどんどん消して、それでもまだ全部は消せなくて。最初からマイナスのものは、逆に平凡な型に嵌め込むことで、自分が楽になる。
「書くことには浄化作用があるんだ」
と誰かが言ったけれど、その通りなのだ。カタルシス。私も随分助けられている。


だけど本当は、読んだ人がほんのり嬉しくなるような文章を書く人に憧れる。自分の為だけのものか、他人に読ませる為のものか、という大前提の違いはあるとしても。
文章が上手な人は、美味しいものを湯気がたつまま美味しそうに書ける。型に嵌めない代わりに誇張もせず、「よかった」事を文字に映せる。なんて素敵なのだろう。


空に近い冷蔵庫を前にして、食欲が湧く小説を読んでしまうとそれはもう困るのだけれども。
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