現実の穴

楽器に触れたい楽器に触れたい楽器に触れたいと、切に願う瞬間がある。
鍵盤でも管でも弦でも良いんだ。思いを言葉に出来ないこのむずがゆさを、伝える力を持たぬ自分への苛立ちと募る焦りを、内に溜まった滓がいつか何か厭な形で噴き出してしまうのではという恐れを、音に変え、全て、外の世界へ放ってしまいたい!

だけどきっと、いざ楽器を手にした私は気付いて立ち竦む。それまで何かで満たされていると信じ続けてきた己の内には、ほんとうは語るものなどなにも無いのだと。
結局何も持っていないのだと。