スター・スパイス・スター

――それは、流行をも鮮やかに超える
仕事帰り、黒いパンプスの爪先にじわじわ刺さる鈍い痛みを半分意地になって無視して立ち読み続けていた一律値付古本屋にて、ふとそのワンフレーズが脳裏に翻った。何の脈絡も無く唐突に浮かんだその言葉が、今夜の変に力んだ私を一瞬素のままにし、その瞬間、ささくれた心がふっと凪いだ。

しかし、そんなフレーズ、何だったか、誰かのエッセイで読んだのだったかそもそも本当に読んだのかも忘れた程度のそんな言葉―何の思い入れもない筈の―で、心がすっとする事もあるんやなぁと意外に感じる。

鮮やかに超えたい。
時に褪せない仕事がしたい。周囲の気分に惑わない自分でいたい。後に振り返って、胸を張れる恋愛がしたい。
一瞬の不安を超え、ずっと誇りに思っていられる自信を掴み取りたい。
たまに現れるこういう「重し」が、私を形作ってゆく。