京の花街

下宿しているアパートのすぐ裏が3大花街のひとつと云うのは、意外と凄い事なのかも。いや、まあ、この都市に住んでいる(私の様に此処を地元としない)大学生は、皆一様に似たような事を考えているのかも知れないが(「うちの裏は老舗の超有名店よ」「三軒隣は世界遺産」等…)。


もっぱら昼夜逆転生活な今日この頃。
深夜、うちにやって来た友人と一緒に、小腹がすいたねそうだコンビニ行こうなどと云い合いながら部屋を出ると、廊下に新聞配達のお兄ちゃんがいてうひゃあ!となる。空がもう白み始めて居る事に、2人とも全く気付いていなかったのだ。外は小雨が降っていて、この時間帯独特の空気の透明さが薄れてしまっているのが残念。けれど、傘もささず、霧雨と靄立ち込める夜明けの町を闊歩するのは中々に気分の良いものだ。
貸し切り状態のコンビニでカップラーメンを一つ買い、また外へ。この時間帯のセブンイレブンにはお湯が用意されていないとか何とかぼやく彼女と私は、そのまま裏手の花街通りへ入る。
人の気配が無いのに、妙な温もりと何か「存在」の影を漂わせるこの通りを夜歩くのは実は初めてで、明かりを灯したままの灯篭、高級料亭の屋根に響く雨音(鼓の音の様に聴こえる)、ふいに現れる先の見えない小路、馴染みの洋菓子屋のショーケース、それだけで破壊的に雰囲気ぶち壊しの現代建築一軒家とその壁を飾る無数の電飾――青と赤…などそういった物たちに出会う度、私達は感動し、好奇心丸出しに駆け寄り、時に意見しながら歩いていった。
周囲に誰もいないと思うと、傍にいる者の気配が際立つ。
堂々と築かれた土塀の周りをぐるりと回り、その中に隠れた建物は一体何だったろうかと2人して首を傾げて歩くその時、ふいに言葉に出来ない想いにとらわれ、私は足をとめた。そして気付かれないうちに、すぐまた一歩を踏み出し、友の傍に駆け寄った。
知っている。こういう時、「言葉にならない」などと云うのは少しずるい。

町家の前に立つ朱色のポストが、もう一つの目的地だ。2人でしたためたお馬鹿な手紙をストンと入れる。無事、四国の先輩の元へ届きますように。ついでに私達にもご利益を。
どうもどうも。