The Episode

「俺、将来ずっと一緒にいたいと思える女性にしか愛してるって言えない」
昨年の今頃、突然別れを告げられた時、彼はどこかの三文小説から引用したような台詞を吐いた。大層真面目に。
「気付いていた?だから、ここ最近、好きって言ったけど、愛してるとは言ってなかった」
そこはありふれたキャンパスで、学生の喧騒が普段通りで、私は少しお洒落をしていた。すれ違いの後だったから、久々に逢えて嬉しかった。だから何もかもが唐突過ぎて、目の前に立つ恋人の放つ言葉の意味が解らずに只じっと彼を見ていた。今思えば随分な事を言ってくれたものだ。勿論、私にも充分に非があったとはいえ。
「少し同情も、あったんだ」


私は、あれから1年経った今もその一言の有無に振り回されている。
その時の恋人は結局今も恋人のままで、後輩には「理想ですよ」などとからかわれ、私たちは顔を見合わせ肩を竦めて見せる。「結婚しような」なんて言ってほろ酔いの彼が私を抱きしめ「ばっかじゃないの」と冷たくその頭を叩く。皆、笑っている。

それでもやはり、私の頭にこびりついたあの声はいつになっても消えてくれない。
口喧嘩をする度、他の可愛い誰かと親しげに言葉を交わすのを見る度、二人きりの時間に「love」でなく「like」を使う彼の目を見る度に、そこには何の含みもない筈だと自分に言い聞かせながらも以前は数えたことも無かったその一言の重みと彼のその瞬間の心情を想い、遣る瀬の無い気持ちが首をもたげる。

例の月刊少女マンガ誌じゃあるまいし、例え口には出さずとも、そんな事で鬱々としている自分を馬鹿みたいだと思う。以前の私であれば、鼻を鳴らして嘲笑していたであろう愚かな弱さと疎ましさ。何だか随分と臆病になってしまったようだ。